「おんな城主 直虎」第32回 感想めも

自分の考えを整理するためのめも。
個人の勝手な解釈ですのであしからず。
結局1番納得できる解釈は、ただの願望な気がしております。

直虎と政次

30話以来の囲碁
直虎に自分はやはり城主に向いていないから政次が望むなら城主の座にとどまってもかまわないと言われた政次。
ノベライズにはこの直虎の言葉の後に
「直虎が政次に報いてやれるとしたら、それよりほかにはない。」
という地の文があります。
直虎にそう言われ真っ直ぐに直虎を見つめながら考えを巡らせている様子の政次。

この場面こそ
「では還俗して俺と一緒になるか?」
と言うこともできたはずです。
ずっと心のどこかで「いつか…」とは思っていただろうけど、いざその瞬間が訪れた時に政次が出した答えは殿は殿のままで、と。
この時点で、おとわを嫁にもらうのは違うと気付いたのではないかと。

子供時代、出家してしまい亀の嫁になれないなら亀の竜宮小僧にもなれないと泣き言を言ったおとわに「妻としてより僧としての方が亀を助けられることは多いのではないか」と慰めた鶴。政次が選んだのは正にこれだったのかなと。
誰よりも城主にふさわしい直虎を、家老として誰よりも近くで助ける道。

政次に領主として真に認めてもらえて嬉し泣きしてしまう直虎。政において政次のことを信頼し尊敬もしていたのだなと思います。ふたりで、いや映身とした直親も含めて三人で井伊谷を守りきり、井伊と小野もひとつとなり幸せな未来がもうすぐ訪れる……直虎と政次の本当に穏やか笑顔が、この先の結末を思えば切なすぎるけど、そこにいるふたりにとっては希望に満ち溢れた幸せな時間。

このふたりの充実した表情を見ると、政次がおとわを嫁にもらう道を選ばなかったことを「おとわを諦めた」とか「失恋」とか、ネガティブな言葉で表現するのはなんだか違う気がして。
政次自身おとわに未練がないといったら嘘だろうけど、おとわへの大きな愛は変わらず抱きつつも、「嫁にもらうかどうか」という点ではその迷いからは卒業したのかなと。

政次となつ

個人的に達した結論から言うと、政次はなつを女として好きだから求婚したとは全く思っていません。そんな台詞もなければ政次の表情から“女としてなつが好き”という感情は少なくとも私には読み取れませんでした。
なつと亥之助の前では政次はいつも穏やかな表情をしていて、家族として安らぎを感じていたように思います。

なつが徳川が来れば自分の役目も終わりと言い出したことで、わずかに焦りを見せる政次。
なつが家にいてくれることが当たり前になっていたので、なつのこの発言はおそらく予想外だったのでは。
それを聞いて反射的に「寂しい」と感じ、なつがいなくなれば亥之助も……それも困るし、ではどうするか……そうだ、結婚すればよいのか。という流れの咄嗟の提案だったのではないかと。

政次が今まで嫁をとらなかったのは、やはりどこかでいつかおとわを嫁にもらいたいという思いがあったから。その思いに決着がついたことで、政次は空いている正室の座になつについてもらうことを思いついた。

ノベライズでは「夫の菩提も弔わず、私の慰み者になっておると、心ない噂を立てられたこともあろう。恥ずかしい思いをさせ、いつもすまぬと思うていた」という政次の言葉があるように、なつとかたち上結婚することで、なつ自身や小野家として体裁を整える意味も多分にあったはず。
また、なつが政次を慕っていたことは薄々気付いていたはずで(ノベライズではその旨の地の文がある)、その想いに報いたいというのは政次の優しさだと思います。

少し話が逸れますが……
おんな城主 直虎」で描かれている武家の夫婦で、最初から好き同士で結婚できている夫婦はおそらく1組もいないのではないかと。当時の婚姻はあくまでも家のため。思えば最初から通してこのドラマの中で度々描かれてきたことです。
桜に縁談がきた時の政次の台詞
武家の婚儀とはさようなもの。利用するか、利用されるか。」
政次はいい意味で結婚を“利用した”のだと思います。
家族を手放したくない政次と、政次を支えたいなつがお互いwin-winになるための結婚。

そもそも、政次のおとわへの想いとなつへの想いでは大きさも違えば種類も違う。ゆえに、おとわを嫁にしたかった気持ちと、なつに求婚した気持ちでは、「結婚」というかたちは同じでも、政次にとっては中身が全く別のものです。

政次のおとわへの想いは幼い頃からの恋愛感情を内包した唯一無二の生涯変わらぬ愛であるのに対して、なつへの想いは大切な亡き弟の妻であり長年そばでそっと支えてくれた義妹への感謝と家族愛の域を出てはいない思います。

政次にとって、おとわと結婚することは長年の夢であり自分の幸せを実現するもの。しかし、なつとの結婚は、政次が家族を失うことなく、さらになつに報いるために政次が利用した手段にすぎないのではないかと。
政次は二人の女を愛したわけではないし、おとわではなくなつを選んだということでもなくて、結果的にそうなっただけだと思うのです。

「かたちばかり」とあえて言ったのは、夫婦としての中身は伴いませんよという意味だと思うのですが、それが玄蕃への心遣いであるという意見を聞いて納得。さらに言うと仲の良い夫婦であった玄蕃となつ二人への心遣いでもあるのだなと。

なつに対する「そばにいてほしい」「手放したくない」という言葉は政次の本心でそこに嘘はないと思います。おとわへの唯一無二の愛ごと受け止めてくれたなつを愛しく思う気持ちもあるんだろうけど、ぎこちなく抱きしめる政次の目に熱は感じられない。あんなに近くにいるのに政次の心は他の誰かを見ているようで切ない……。物理的に近くにいることと、愛情の深さはまた別の問題。

なつの想い

政次の突然の求婚に少し驚くなつ。でも真っ先に政次の気持ちを確認します。
突然おとわの話を出されて逆に驚く政次。「え……!?知っていたのか……?」という表情に見えますが、井伊の味方だと井伊家や小野家家臣にバレまくっていたということは、政次がずっとおとわを好きだったことももれなくバレていたのかもしれないと思うとちょっと気の毒(笑)

「ずっとそれをお望みになっておられたのでは?」と強めに問いただすなつ。
おとわのことには触れずに政次の求婚を素直に受け入れることもできたはず。それをあえて聞いたのは、なつが自分の幸せより政次の幸せを考えているからこそだと思います。政次がこれまでどんな思いでおとわのため井伊のために生きてきたかを知っているから。

なつに核心をつかれて、本心を語る政次。
「うまく伝わらぬかもしれぬが、私は幼き時より、のびのびとふるまうおとわ様に憧れておったのだと思う。それは今も変わらぬ。殿をやっておられる殿が好きだ。身を挺してお助けしたいと思う。その気持ちを何かと比べることはできぬ。捨て去ることもできぬ。生涯、消えることもあるまい」
政次の正直すぎる唯一無二の絶対的なおとわへの想いを目の当たりにして「ほら、やっぱり……」といった感じで自嘲気味に笑みを浮かべるなつの目から涙が零れ落ちます。どうしたって自分は敵わない。あまりにも大きすぎる愛。

それでも、おとわへの想いとは別に「そなたにはそばにおってほしいと思う。そなたを手放したくはないのだ」と、なつにも心からの気持ちを伝える政次。
不器用ながらも本心を語ってくれて自分を必要としてくれたことが、なつは素直に嬉しかったんだと思う。口では「殿のことは何とも思ってないと、そう言うものですよ」とチクリと指摘しながらも、そんな不器用さが政次らしくてよかったのかもしれない。

なつの「わたくしがお慕い申し上げておるのは、さような義兄上様にございますゆえ、致し方ございませぬ」の部分がそれまでの口調より一段階上の敬語になっているのは、政次のおとわへの想いを尊重して、自分は慕っているけど「かたちばかり」でも構わない、わきまえていますという意思を表しているのかも。
聞き分けのいいなつだから、自分の想いが100%は叶わなくても、求められたかたちで尽くしていこうと。
でも、そう言いながらも再び政次の肩に静かに泣きながら寄りかかるところは、女としての苦しさが滲み出ているようで、慕う人からの求婚なのにどこか悲しげで。
政次の心が自分にないことを、おそらく政次以上になつは感じてしまったのではないのかなと。
そんななつの聡明さが美しくて切ない。

あの夜致したか否か問題

上記のように解釈したので、これはないと思ってます。
玄蕃の死後もなつが小野に残りたいと言った時、幼い頃の玄蕃にそっくりな亥之助がいてくれることに涙した政次が、事も成っていないのに玄蕃を裏切ってまで致せるほどなつのことは好きではないと思う。玄蕃を大切に思う気持ちはなつも同じだろうし。
これで、後になつに子ができるような展開になったら、それはその時に考えます(笑)